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長野県塩尻市平出
 
  塩尻市桔梗ケ原の南東の端に平出という地区があります。広大な野原に遺跡群があって、縄文時代から古墳時代を経て平安時代までの遺構に集落住居群が復元されています。
  比叡ノ山ひえのやまの麓の集落には江戸末期からの本棟造りの古民家が数多く残されていて、美しい農村風景を織りなしています。
  写真:平出遺跡の縄文の村。

 
5000年の歴史の旅

  中山道塩尻宿から西に3キロメートルほどのところに平出という地区があります。鳴雷山(標高1092メートル)の峰から北東に延びる尾根から分かれた比叡ノ山の北麓に広がる平原には、5000年ほど前から人びとが集落を営んできました。
  比叡ノ山の東麓には平出の泉が絶えることなく湧き出していて、太古から山麓一帯に豊かな水を供給してきたようです。山の豊かな恵みを採集するにも、農耕を営むにも適した場所です。
  鎌倉時代からは治水・水利技術が発達したため、人びとは山に近い南側――現在の平出集落の近辺――に集落を建設し、農耕地を開拓したのではないでしょうか。


▲縄文遺跡から比叡ノ山(右)と大洞の眺め。背後には鳴雷山の稜線が続いている。

▲縄文時代の環状集落跡に復元された住居群

▲比叡ノ山の東麓に湧き出ている平出の泉。石灰質の岩のあいだから湧き出ている水は鮮やかな青緑色に輝いている。

■平出遺跡公園■

  平出遺跡の面積は30万平方メートルにもおよび、縄文時代から始まって古墳時代、さらには平安時代までの集落跡が発掘され、復元されています。
  遺跡群は平出の集落をあいだに挟んで北側が平出遺跡公園、南側が歴史公園で、歴史公園は比叡ノ山と大洞山とのあいだに位置しています。

◆縄文の村◆


▲廃絶住居跡の浅い穴には壊れた土器や食糧残滓などが投棄されていた

  平出遺跡公園の最も主要な展示は、ガイダンス棟の南に位置する縄文時代の居住域です。環状集落の集落住居群が復元されています。
  復元されているのは、存在したであろう集落の住居の10分の1ほどで、実際には50個以上もの竪穴跡が発見・発掘されているようです。
  住居は儀式や集会の場所としての中央広場を囲むように環状に並んでいます。


▲内部の造り

▲住居内部の様子

◆古墳時代の村◆

  縄文の村の西側には古墳時代の村の建物――1300年ほど前の高床式倉庫と住居――が復元されています。有力者の建物だそうです。
  住居には壁がなく、竪穴に立てた柱を屋根を支える支柱群が取り囲んで支えるという基本構造は縄文時代の変わりませんが、中央部の柱が1対になってより堅固になり、梁や桁などの枠組みらしい仕組みがあるのは、著しい進化です。


▲農村なのに都市集落のような景観

  集落住居群の近くには高床式倉庫があります。これは集落から収取した余剰食糧を保管する倉庫として特別のもので、切妻屋根の下の四方を木製壁が取り囲み、高床で湿気や水、ネズミなどの侵入を防ぎ食糧を保管できるようになっています。
  これは縄文時代と比べて決定的な進化で、壁と屋根に囲まれた建築は、統治のための特別の建築物に応用され発展していったのでしょう。有力者は集落の政治的指導者となっていったのかもしれません。

◆平安時代の村◆


▲戸口側の造りがしっかりしている

  縄文の村から200メートルほど東には平安時代の村があり、そこには一戸の家族の住居を含む家屋が復元されています。
  縄文時代にはわずかに栽培もあったのかもしれませんが、食糧は採集が中心でしたから、住居は密集していましたが、農耕が中心となった平安時代には一戸の家族単位で農耕活動をしていたので、住居の周囲を耕作地が取り巻いていました。
  そのため、集落は散居型になったようで、住民たちは田畑の耕作を家族ないし家系単位でおこなっていたようです。したがって、農具や種、余剰作物の保管も一戸単位となったのでしょう。
  寄棟屋根の下の四方を茅など風通しのよい材料で覆った壁で取り巻く納屋は、一般住民も建造・保有できるようになっていたのでしょう。とはいえ、富と権力が集中していた京洛とは相当に開きがあったようです。


▲納屋の内部の様子


縄文の村南方の眺望 草原が広がる

遺跡公園ガイダンス棟

縄文の村の復元住居群


住居の内部も見学できる

居住域の南側の樹林 当時の植生を模している

近隣の保育園児たちの散策場所となっている

古墳時代の村 住居と高床式倉庫

基本構造は縄文期と同じだが、より広く頑丈な造り

屋根は寄棟風から入母屋風に進化している

高床式倉庫は側面の壁や階段があって、特別の造り

倉庫の内部の様子

平安時代の村 一戸の家族の建物群

地面に接する茅葺の構造は縄文時代と同じ

茅葺屋根は厚みがあって、内部の桁や梁も堅固だ

倉庫(納屋) 側面を風通しのよい茅製の壁が覆う
作業場としても使っていたようだ

建物の様式が多様化している
 
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