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長野県北安曇郡白馬村
山間の古民家集落

  千国街道をめぐる旅で訪れた塩島の南側、つまり松川を挟んで対岸にあるのが大出地区です。大出は姫川と松川の合流点の手前で2つの川に挟まれた複合扇状地にあって、盆地の東端に位置しています。集落の東には姫川を挟んで高戸山系の尾根や峰が迫っています。白馬村が整備した大出公園は、湾曲しながら北東に流れる姫川に峰方沢が南から合流する地点にあります。
  集落は、姫川が刻んだ段丘崖上の台地に形成されているのですが、その上の広大な段丘には水田地帯が広がっています。【ここで掲載した写真は、2019年5月末と2020年9月はじめに撮影したものです】


▲晩春の大出集落(撮影5月末): 姫川の河岸段丘上の集落、祖母背景は唐松岳、杓子岳、白馬岳、小蓮華山、乗鞍岳


▲大出観音堂脇から東方を眺める

  この地区を遊歩するさいのおススメのコースを紹介しましょう。クルマは、吊り橋茶屋から100メートルほど南東の大出公園駐車場に置くことをおススメします。
  ネットなどで流れている情報では、大出公園と吊り橋を渡ったところの集落ばかりが紹介されていますが、じつはそれだけではありません。下に掲載したグーグルマップの周遊散策コースは、美しい田園風景と古民家群を眺めて回るものです。道のりは約1.5キロメートルです。
  このページの最上段の写真は、川沿いの集落よりも上の河岸段丘上から西方を眺めた風景です。古民家カフェかっぱ亭の裏の農耕地からの眺めです。周遊コースでは、集落から北に曲がった先の場所です。
  川沿いの集落から高低差3~4メートルほどの坂をぼると、広大な水田・畑作地帯になります。そこからおよそ500メートルほど北に進むと、小さな集落に入ります。そこでも古民家が4棟見られます、端正に整備された村道を経て、今度は西向きに曲がり、杉林の近くの水田のなかの道路を歩き、そのさきで南に曲がって、観音堂まで戻ってくるのです。


吊り橋から600メートルほど北に歩いた先の集落にも茅葺古民家がある▲

おすすめの大出集落周遊散歩コース

  今回の遊歩では、まず最初に大出集落の家並みを楽しみながら、おススメ周遊コースを北に向かいます。次に大きで公園をひとめぐりし、公園の南にある北野神社を探訪します。そして、かっぱ亭で昼食を兼ねてゆたりとした時間を過ごします。4つのトピックのそれぞれ1ページをあてることにします。


▲吊り橋茶屋脇の小さな茅葺き庵

▲吊り橋を渡って振り返る

◆河畔の集落◆

  5月末に訪れたときには、吊り橋の上から見える姫川の流れは、雪解け水を集めて水量が多く、激しく波立っていました。吊り橋そのものは欄干と橋床が木製で、それを鋼鉄ステンレスのワイヤーが吊り上げ支えている構造です。
  歩行用の橋としては、きわめて頑丈な造りで安定感抜群、橋が苦手な人でも安心して渡ることができます。吊り橋は、姫川が刻み込んだ川面との高低差7メートルほどの深い渓谷の両岸をつないでいます。


▲晩春から初夏の陽射しの下の古民家

▲9月はじめ、安芸の草花に囲まれる古民家

  吊り橋からは、河岸の崖の上にたつ古民家とこれに続く河畔の家並みが見えます。なかでも茅葺屋根が金属板を被せることなくそのまま保存してある古民家が素晴らしく印象的です。橋からまっすぐ伸びる小径の正面には、茅葺きに金属板を被せた屋根の古民家があって、それが橋の上からも視野に飛び込んできます。古民家カフェかっぱ亭で、前庭のテーブル席もあって、前庭の端には小さな水車が回っています。
  かっぱ亭の斜め前にある茅葺屋根そのままの古民家は観光施設ではなく個人宅ですので、敷地には入らないように気をつけましょう。この古民家は、茅葺屋根の南側が切り開かれて、二階により多くの陽光や風を取り込めるような造りになっています。これは養蚕のためです。このことから、その建築または修築年代は大正時代から昭和初期頃までと特定できます。

  さておススメの遊歩コースは、かっぱ亭の前を東に曲がって村道伝いに歩き、この集落の雰囲気を味わったところで、道を北に取ります。標高差にして4メートル近くの段丘崖の坂をのぼることになります。丘の上、集落の裏手(北側)には広大な水田畑作地帯が広がっています。
  ここで、田んぼの畦道を歩いて、白馬連峰の雄大なパノラマを楽しみましょう。パノラマの南の橋は鹿島槍ケ岳の北稜から五竜岳、そして北の端は白馬乗鞍や栂池高原ということになります。
  9月の終わりごろにここに立つと、黄金色の稲穂の彼方に残雪がなくなった白馬連峰が見えるでしょう。


▲集落北側の段丘崖上からの眺め

◆水田地帯北の集落◆


▲大出地区北にある稲田のなかの集落

▲大正時代に開かれた集落だろうか

  大出の北端で、姫川は北東に流れ下っていきますが、そこに西から来る松川が北向きに湾曲しながら合流します。松川は姫川の支流ですが、流水量ははるかに大きく川幅も大きいのです。松川の南岸には広大な杉の森が広がっていて、水田地帯や集落と川とを隔てています。季節風と水害を避けるための防災林となっています。
  川の湾曲部では膨らんだ側に流水の力ははるかに大きくなって、浸食作用や増水時の破壊力が集中します。そこで、水田地帯の北側の杉林は、松川の氾濫時の被害を抑えるために植林されたものでしょう。
  そんな、北側に森を背負った水田地帯のなかに大出北部の小さな集落があります。茅葺古民家も3棟ほどありますが、山小屋別荘風の建物も目立っていて、山間のリゾート地にも見える農村です。
  私は古民家や古い家並み、道筋を求めて歩くことにします。


▲豊かな集落で、庭も端正に整えてある

  この集落の東側には、姫川の谷を隔てて高戸山の尾根が迫っています。ここ大出で姫川は北東方向に流れていき、やがて西から流れ下る松川と激突するように合流します。水量からいえば、松川がむしろ本流で姫川が支流というべきでしょう。
  大出の肥沃で平坦な大地はこの2つの川がぶつかり合いながら浸食と堆積を繰り返して形成したものです。この複合扇状地に堆積した土砂の大半は、松川がもたらしたものだといえます。
  明治時代までは広大な森林が覆っていて、姫川の周囲は湿原または湿地帯をなしていたようです。明治以降に水田開拓と農村建設が本格的におこなわれたのでしょう。


▲塩島の南を流れる松川:500メートル下流で姫川と合流


吊り橋茶屋前からの景観


姫川の流れは雪解け水を集めて荒々しい


吊り橋北端脇の古民家は河岸の崖の上にある


茅葺き屋根がそのまま保存されてい古民家(晩夏の敬拝が漂う)

養蚕のため二階に多くの陽光と風を取り入れる
ために、茅葺屋根の南側を切り上げてある


集落の西の彼方にそびえる北アルプス


古民家カフェかっぱ亭:裏手は段丘崖で田園地帯が広がる


段丘上からの集落(古民家群)の眺め


古民家の裏手で道を北に取る


川岸の集落の北側の田園地帯から西方、白馬連峰の眺め


河畔集落の北には水田地帯が広がる。背景は白馬岳、小蓮華岳、乗鞍岳。


この地区にも重厚な造りの広壮な茅葺古民家がある


海鼠壁を施した白漆喰壁の土蔵


豪雪地帯なので、屋根が急な勾配だ。それがお洒落にに見える。


やはり養蚕用に二階南面の屋根を切り上げてある
]

庫裏や杉の木は防風林だろうか


古民家が両側に並ぶ村内の小径


散策が楽しくなる小径だ

◆観音堂の界隈を歩く◆

  さて、田園地帯を一回りして、暇川河畔の集落まで戻りましょう。周遊コースは、観音堂脇の三叉路辻に戻ってきます。
  観音堂は吊り橋から西に曲がって80メートルほど歩いた場所――三叉路の南脇――にあります。観音堂と道を挟んだところに多数の石仏が集められています。昔からここにあるのでしょうか。もちろん、観音堂があるわけですから、石仏が並んでいても何の不思議もないのですが。
  そんな状況から、この辻は集落の祈りの場といえるかもしれません。石仏の背後には用水が流れていて、三叉路で北に曲がってから東向きに戻り、かっぱ亭の前に出て、やがて集落を抜けて姫川に流れ落ちていきます。
  この用水には冷たくて済んだ水が流れていて、水面には石仏が影を落としています。豊かな水に恵まれた白馬村ならではの穏やかな景観の要素となっています。


▲東に向かう観音堂脇の小径: 穏やかで豊かな農村風景だ

▲西に向かう小径: 首位雄コースは右から合流

  観音堂は姫川を見おろす段丘崖の上にあろので、その境内から吊り橋を眺めることができます。晩秋には紅葉に囲まれて、絶景ポイント間違いなしです。


▲観音堂から姫川の流れと吊り橋を眺める


石仏群が並ぶ観音堂前の三叉路辻:草原のなかにいくつもの石仏


こじんまりと端正な観音堂

石仏の背後に用水が流れている:ここは水が豊富な集落だ

石仏は観音堂を守るかのように並んでいる

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