福島瑞穂の棚田地帯の溜め池から1.2キロメートルほど西北西に「神戸の大銀杏」と呼ばれる巨木があります。樹齢はおよそ500年、胸の高さでの幹周り14.7メートル、樹高は36メートルだそうです。


▲根元の石祠の向きから、正面は谷の最大傾斜線に沿っていることがわかる


背後の斜面から大銀杏を見おろす▲


▲「銀杏三宝大荒神」という扁額が掲げられた鳥居(南西向き)

▲根元の南西には小さな石祠が置かれている: これが正面なのか

▲南東脇には小ぶりな社殿が置かれている
▲銀杏の背後(東側)の丘斜面から見おろす

▲銀杏の南方にある神戸の集落

  この大銀杏は、主幹に同じ根元から出た何本もの幹が成長とともに合体して幹回りを増大させたようです。下の方の大枝からは気根(乳駐)も垂れ下がっています。旺盛な成長力が、地中の根に加えて気根による大気中の水分や養分(窒素や酸素など)を求めるのでしょうか。

◆巨木は神様◆

  由緒が古い寺院や神社の境内には多くの場合、ご神木とあがめられる老巨樹があります。日本人の素朴な自然信仰、自然崇拝の精神が、樹齢の長い巨樹を神聖なもの、神なるものとして大切にしてきたのです。
  飯山市瑞穂神戸にある大銀杏は、寺の境内あるいは神域にあるからというのではなく、巨樹それ自体が神様として祀られているようです。


西方の景観: 彼方に千曲川と飯山市街がある

  小菅山をめぐる記事で見たように、小菅山は古くから密教修験の場でした。明治維新の廃仏毀釈で大隆寺という大きな寺院は解体されてしまいましたが、麓の瑞穂は「祈りの里」だったのです。人びとは、畏敬すべき自然物――山や川や池、石や植物など――に神仏を見出していたのです。
  大銀杏の前には鳥居が建立され、「銀杏三宝大荒神」という扁額が掲げられています。神戸の大銀杏は自然信仰にもとづいてご神体として尊崇され、荒神様の化身として、また仏法僧にも並ぶ三宝の神性または仏性を備えた存在として祀られてきたのでしょう。
  つまり、何百年もここで人びとの営みを見守ってきたイチョウという自然物のなかに、思いつく限りあらゆる崇高なもの(神性や仏性)への尊崇を込めて祀ったものと思われます。

  汎神論的な自然信仰については、仏教法理からも、神道思想からも説明しつくすことはできません。自然のあらゆる事象のなかに神を見出す汎神論を、それ自体として理解する必要があるのではないでしょうか。


何本かの幹が合体したようだ

神戸の集落と棚田

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