姨捨の棚田 四季をめぐる その1

  千曲市姨捨の棚田地帯で四季の移ろいを春から始まって冬まで「定点観測」することにしました。棚田の春は冬を越した土を耕起することから始まります。
  田の畔の草が枯草色から薄緑色に変わり、土筆や蕗の塔が土から顔を出す頃合いに最初の耕耘が始まります。眠っていた土に空気を送り込み、目覚めさせるのです。水田の場所や土の性質によってはすぐに水を張ることもあります。あるいは田植え直前まで水を入れない場合もあります。

■棚田の春■


春の田起こしが終わった棚田。斜面の下に広がるのは善光寺平で、その中央を千曲川が流れる。▲

水を張った棚田。幅広の尾根の背に連なる水田。▲

無農薬・無化学肥料で自然の生態系を回復した「生き物いっぱい田んぼ」▲

田植えの準備が進む棚田▲

  畦道の草が萌え始める頃、耕起が始まります。棚田の場所(水利の条件)や土の性質などに応じて早めに水を入れることもあれば、田植え直前まで水を入れずにおく場合もあります。耕耘が、まだ冬眠から目覚めていない蛙たちを起こしてしまうこともあるようです。

  姨捨の棚田は一時期には耕作放棄されてしまうものが多く、水田が草原や葦原になってしまったところもありました。ところが、近年の「棚田オーナー制度」が功を奏して、また地元の農業者の努力で、稲田を回復してきているようです。
  都会で暮らす人びとにとっては、休暇で信州姨捨に来て草刈りや田植えをするのは、日常性から脱出して心と体を癒す余暇の楽しみ(レジャー)になるようです。仕事として日常的に棚田耕作するのは、たしかに気分的にも肉体的にもかなり大変なことです。したがって、農家の高齢化とともに後継者もなく、耕作放棄に帰結してしまう場合が多かったのです。
  都市生活者が棚田オーナーとなるさいに一番に望むのは、田舎の自然のなかに身を置きたいということです。そうなると、地元姨捨で棚田の日常的な農耕管理をしている人びとにとって、収益や効率を優先するという方法は取れなくなります。農薬や化学肥料を使う農法から、里山の本来の自然や生態系を守る棚田経営に変えていく必要があります。
  地元の棚田経営の従事者たちは、そういう方向に農耕を転換してきました。現在では、蛙やオケラ、ゲンゴロウ、ミズシマシなどがたくさん生存する棚田になってきています。

  そうなると、都市の棚田オーナーは、子どもたちを連れて春の草刈りや初夏の田植えなど、姨捨の棚田を訪れる機会が多くなってきました。






▲初夏、田植えの季節が始まった

  田植えを終えたお父さんに聞いてみると、蛙やゲンゴロウと遊びながら田植えをする子どもたちの方が、すぐに腰が痛くなる大人たちよりも、作業の主力として活躍しているくらいだ、ということでした。
  






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